眼球偏位について考える

中枢性視覚障害はcorticall visual impairment(CVIと略す)とほぼ同義語です。脳内の異常によって生じた原因で視覚処理が障害されることによって引き起こされます。欧米の各成書にはその原因の1つとしててんかん発作が明記されています。てんかん発作時には、eye deviationが起こることも書かれていて周知のことです。。重心児にはてんかんを有する者が多く、発作時には視反応が無いことが多い。しかしてんかん発作という用語を正確に使うためには、その診断基準を満たしていなければ使えません。小児神経の専門家でない眼科医・両親・療育関係者・教師などは、重心児と接する時に重心児が示す異常状態である両眼が偏位して無表情になり体が固まり外への反応が無くなるような状態に多々遭遇します。それをてんかん発作かそうで無いかの議論は別にして、明らかな脳内の異常に伴って、てんかんと類似の結果を示す異常が生じていることは明らかです。国内および海外の文献に重心児のこのような状態を示す適切な用語を探しましたが、固視や追視を認められない異常な状態をすべてまとめて示す適切な用語は見出せませんでした。そこで脳内の異常に伴って引き起こされたてんかん発作に似た結果を示すこのような状態を簡潔に表す語として、眼球偏位という語を使用してきました。てんかん類似の疾患は多数あり、ほとんどが脳内のいずれかの部位に起きた異常の伝播によると説明されており、眼球偏位はてんかん発作を含むあらゆる脳の異常状態を反映している臨床症状を示す用語であると考えます。典型的なものはてんかん発作と同様な眼球の偏位を示し、軽微なものは瞬目の間隔が異常に伸びるなどがあります。いずれも無表情になり外からの刺激に無反応になり、体が固まることが多くみられます。欧米の論文やCVIに関しての多くのホームページを見ると、CVI児の特徴を記載していますが眼球偏位が起きている時と起きていない時を区別しないで観察した結果によると考えられます。たとえばbrief fixations, intermittent followingは眼球偏位が頻回に起きていることを示しています。眼球偏位が起きていない時は当然fixationは長く続き滑らかに追視することを観察できるからです。つまり中枢性視覚障害(CVI)は、視覚処理の未熟性・視野欠損などの器質的異常・眼球運動のコントロール不全などを背景に、視覚処理を中断する異常が脳内で一過性に起こることが複合していると考えるべきであります。眼球偏位は後者を見分ける臨床症状と考えられます。眼球偏位の起きていない時を正確に観察することで、背景の中枢性視覚障害(CVI)の病態の研究は進むと考えます。

眼球偏位は中枢性視覚障害を診察・理解する上での、最大の障害です。
 重度心身障害児(重心)でものをしっかり見ないとか、回りから観て視反応が乏しいなど、うまくコミュニケーションがとれない原因の多くが、患児の眼球偏位を見落として、それを視反応と解釈していることによります。
 眼球が揃って上がったり、側方へ寄ったり、下ったりして瞬きが無くなった状態を、眼球偏位と呼んでいます。この時は脳波の異常が起きて、解析が中断していますから視反応は無くて当然です。よく「うちの子は天井の電気を見るのが好きだ」とか「すぐ俯く」 などと表現されることが多いのですが。視反応が無いときの様子を、視反応と誤解することで、本来の視反応を見落とすことになります。そうすると対象の視覚の状態を理解できなくなり、あいまいな診断や助言に終始する結果になります。眼球偏位が起きているかいないかを判断できる目を養わなければなりません。また眼球偏位が起きると、特に無表情になり体がかたくなることが多いことも理解の助けになります。各対象ごとに眼球偏位のパターンは特有で、たとえば左上方に眼球偏位が起きる症例ではそれを繰り返し、他の方向へ眼球偏位が起きることはまず少ないのです。
 これを見破って、対象の視反応を正確に理解しなければなりません。
 まず平らな所へ寝かせて、眼球を観察しましょう。瞬目は自然ですか?健常者の瞬目をよく観察したあと、患児の瞬目を観て下さい。不自然さや、不規則な場合は眼球偏位が起こっている可能性があります。
 次に眼球は揃って中央にありますか?(斜視が常にある場合は利き目がどちらか観察してください。)見せたものに視線がすぐに反応して移動すれば、その時は視反応と評価できますし、コミュニケーションがとれるはずです。
 眼球偏位がその患児ではどういうものかを理解することが大切です。臥位と座位を比較すると眼球偏位の頻度が変化することに気がつくはずです。