重症心身障害児(重心児)の療育を考える

 

筆者は愛知県心身障害者コロニー中央病院で多くの重心児の診療を行ってきた。特に重心児に特有の、眼球内には大きな問題が無いにもかかわらず、視反応が乏しい症例を経験してきた。これらの症例は、眼球では外界の画像を異常なく取り込めるにもかかわらず、視神経を介して取り込まれた刺激を処理して有効な視覚情報を取り出すことができないでいる。その原因の多くは、脳が解析処理をする過程で正常な処理ができない異常な状態になることである。多くの場合瞬きが止まる・眼球が揃って偏位する・無表情になる・動作が止まるなどの状態を示す。当初眼球が揃って偏位することから「眼球偏位」と名付けた。 その後英語で表現する上でコンピュータの用語でもあるフリーズ(freeze)を用いることにしている。症状を理解する上でも脳の活動がフリーズした状態と考えてほしい。眼球と視神経に異常を検出することができない視覚障害を、中枢性視覚障害と分類するが、このフリーズが大部分を占める。フリーズが頻回に起こり続けていれば、まったく見えていないように見え、時々起こる場合は、ボーッとすることがある程度に観察される。
ここで重要なことはフリーズしている時は、脳の状態が異常であるからいくら働きかけても処理できず無効になることである。療育の基本は受け手が働きかけの刺激を受け止め学習して発達することにある。現在の療育関係者がこの点を正確に理解しなければならない。ところが現状は理想とほど遠いと言わざるを得ない。まず治療対象が、視反応が乏しいことに注目して眼科受診をすすめるケースがほとんど無い。だからフリーズがある症例だとの理解がなくフリーズを無視して療育のハビリテーションの指示をしている。また運良く眼科に紹介されても、その眼科医がフリーズを理解していることはほとんどない。よって紹介元へは、明らかな眼球内の異常は認められないと回答するだけと思われる。要するに長い間重心児を研究してきた医師が、フリーズを理解しないでハビリテーションへの指示を出し、重心児はフリーズを理解していないPT・OT・ST・保母・看護師などから療育なるものを受けることになる。
ところで、ここで今までわかっているフリーズの特徴を挙げておく。不安定な姿勢はフリーズを誘発する。また呼吸状態が悪いとフリーズを起こしやすい。
ではどうすれば良いであろうか。まずみんながフリーズの存在に気づく必要がある。将来的には、複数のカメラでモニターしてその画像をAIに学習させフリーズを確認するようになると思われるが、現実的には疑ってかかるべきである。重心児ならまず程度の差こそあれ、フリーズは存在する。
特にPTが重心児に訓練と称して負荷をかける場合、フリーズを誘発する危険がある。特に0歳台の重心児にはフリーズの時間をできるだけ短くしたい。どのような体位をとらせるとフリーズが減少するかを見つけることが最も重要である。 重心児が力まずリラックスして、楽に呼吸できる姿勢を見いだすことができれば、優秀なPTである。繊細で壊れやすい重心児の脳にフリーズの時間を次々与えることは、将来の禍根を大きく残す問題である。重心児の療育の要諦は、重心児の脳がより正しく発達するように、その発達を阻害する要因を見つけて解決する姿勢と考える。重心児の療育に関与するものは、このことを根底から考え直すべきである。