近視について考える

挿絵はわかりやすいように倒像を無視して描いてあります

機器写真

遠視・近視・乱視の状態を屈折といいます。屈折の状態を決定するのは、角膜のカーブ・水晶体の厚み・角膜から網膜までの距離です。遠方のものを見る時、なんの努力もしないで、網膜にピントの合った像が写るのが正視です。網膜の前でピントが合ってしまう場合は、網膜の位置ではぼけた状態で、これを近視といいます。網膜の後でピントが合う場合は、網膜の位置でやはりぼけた状態となり、これを遠視といいます。

施設写真

 

ピントの合う位置は、遠方を見た時に比べ実物が近づくにつれ、後に移動します。眼球がなんの努力もしないでいても、近視の眼はだんだんピントが合うようになります。一方正視の眼はボケ始め、遠視の眼はさらにボケるようになります。しかし、今度は水晶体とつながっている、毛様体の筋肉が緊張して、水晶体の厚さを増して、網膜にピントが合うようにがんばります。これを調節といいます。実物が近づいてくるほど、本来のピントの合う位置は後にずれていきますから、調節する力は大きくする必要があります。また調節のおかげで、正視の人は遠方から近方まで、いつでもピントの合った画像を、見ることができるのです。 ところで、近視の眼はどんな特徴があるでしょうか。近くのものを調節しないで見ることができますね。ですから近視の眼は近くのものを見るのに適した眼と言えます。では、近視はどうして起きるのでしょうか。 人間の眼は、3歳頃はほとんどの人が正視です。そのうちに成長するにつれてだんだん近視の眼を持つ人が、増加します。昭和の前半のデータなどと比較すると、各年齢で近視の割合は、近年で増加をしています。また本をあまり読まない集団と、同年齢の中学生のデータを比較しても、近くを見る機会の多い中学生に近視が多いのが事実です。最近考えられている近視の発生要因は、近くを見ることにより、調節がおこなわれて毛様体が緊張することにより、眼球が変形を起こすことによるのではないかと考えられています。もちろん個体差があって、毛様体の緊張が同じであっても、眼球の変形が起きやすい人と起きにくい人があることは事実です。しかし近くを見ることが多い現在の環境が、近視の増加と密接な関係を持っているのは明らかです。 近方のものを見る場合、近視の眼は調節をしないでもピントの合った像を見ることができます。ところが遠方がよく見えるように、眼鏡などで矯正すると、ちょうど正視の眼に戻った状態ですね。ですから、眼鏡を装用して、近方を見ると調節をしないとはっきり見えないことになります。

施設写真

ここからは、私が言いたいことです。 正視の人が、現在の環境(近くを見る機会が多い)下で、近くを見ないで済ませることはできません。そこで、できるかぎり近視にならずに済ませるには、調節する時間や調節量を減らすことになります。近くを見る時間を減らし、休憩を入れることはいうまでもありません。しかし、調節量については、深く考えられていません。例えば暗い所では見にくいので、どうしても必要以上に眼を近づけて見るので、調節量が増えます。また寝ころんで読むと眼からの距離が必要以上に近くなり、やはり調節量が増えます。さらに眼鏡で近視を矯正した状態で、近くを見ると正視の状態で近くを見た時と同じで、多くの調節量が要ります。このような状態を続けると、必要以上の近視を作ることになります。 一般に近視になってくること自体は、近くを見ることの多い環境下で、調節をしないで楽に見ることができるように、眼球が環境に適応した結果と考えられます。どちらかといえば、現在の社会環境下では、ある程度の近視になっても仕方がないと考えるべきです。近視で落ちた視力を薬や訓練で戻そうとする保護者がいますが、何を希望しているのでしょう。近くを見る時間を減らすなら、近視が軽減する可能性を否定できませんが、児童の置かれている環境をそのままにして、近視をなおそうという発想は矛盾しています(塾に通わせたり、テレビゲームを買い与えたりして、近くを見ることが多い環境をそのままにしたままで)。大枚のお金を投じて視力を元に戻そうとしても、結果は長期的にみれば無駄になります。大切なことは、近視になった環境に、採光・姿勢・時間の面で問題がなかったかをチェックし、さらに必要以上に近視が進行することを防ぐことです。 次に大事なことは、視力です。児童の視力が遠くを見る時に、十分なものであるかが問題となります。多くは学校の黒板を見る時に、不自由が無いかが重要です。席を前にしてもらうことにより、対応するのが第1です。近視の眼鏡は、遠くを見る時のものであって、かけたまま近くを見ると近視を強める結果を招くことは既に説明しました。このことを理解して、授業中見にくい時だけ使うのが正しい使い方ですが、多くの場合かけっぱなしになりがちです。正しい眼鏡の使い方は、高学年でなければ難しいので、低学年のうちは席の配慮を第1にしたいものです。眼科医の中には、眼鏡を常にかけるようにいう先生がいますが、それは遠視の眼鏡についてあてはまることですが、近視は違います。また眼鏡をかけて1.0の視力が無いと度を強くするように言われることがあると思いますが、その根拠は何でしょうか。黒板の字が過不足無く見ることができれば、強くする必要はありません。度を強くして、それを常にかけるようなら、それは近視の度を必要以上に強める努力をしていることにほかならないからです。先生が言うからではなく、説明された内容が、果たして納得がいくものなのかどうかを、保護者がしっかり考えるべき時です。 その他に、最近の傾向としてアレルギー性結膜炎の児童が多くなりました。人間の眼球で角膜のカーブは、屈折に大きく関係しています。角膜の上に涙の膜がちゃんとできて、外界からの刺激や異物が角膜に異常を起こすのを防いでいます。また涙の膜は角膜の上にできるので、屈折に強い影響を与えます。加齢と共に眼がぼけるようになるのも、涙の膜がちゃんとできていないことが多いのです。アレルギーの炎症が強いと、涙の膜が正常な状態では無くなり、見にくくなります。このような症例では、見える時と見にくい時の差が大きいこと、じっと見ていているとだんだん見えてくること、レンズをかけて矯正してもすっきり見えず、眼鏡店などで眼鏡を作ると度の強すぎるものになりやすい等の、特徴があります。この場合は炎症を抑える点眼薬を使い、自覚症状が改善するかを見るのが大切です。