中枢性視覚障害について考える

眼球などの視路に明らかな異常がないにもかかわらず、見ているという反応(視反応)が乏しい状態をいいます。視覚の解析系に問題があるため、脳に届いた画像からパターンを抽出して、情報を取り出すということができないため、見たものを認識できずに見えていないように見えるのです
 視覚の解析系は、ちょうど印刷物をスキャナーでパソコンに取り込んで、OCRソフトで文字データに変換して利用することに似ています。このような。中枢性視覚障害の頻度は、画像の伝達系に異常のある症例の2倍以上存在すると推定しています。
a)基本的な対応
 視反応発達遅滞を例えるなら、不安定な動作を繰り返しているコンピュータの上で、バグ(プログラミング上のミス)だらけのOCRソフトを走らせている状態と考えることができます。コンピュータの走行を安定させる努力と、OCRソフトがバグをなくしつつ高度な処理ができるように育てていく必要があります。
b)コンピュータの走行の安定化
 不安定な走行をしているコンピュータを、より安定させる必要があります。対象の多くは、脳の活動が不安定で、脳波の異常を有しています。このような症例では、眼球偏位を示すことが多いのです。これは、脳が眼球運動をコントロールできなくなった、一種の脳の暴走状態と捉えることがことができます。この眼球偏位がない状態が、脳の活動状態がより正常に近い状態ですので、視反応を評価したり、強化する訓練を行う時に望ましい状態です。この眼球偏位は姿勢・呼吸状態・体調と密接な関係にあります。頸が据わってない症例で、立位に近い抱かれた姿勢では、眼球偏位はより多く出易くなります。眼球偏位の多い症例を診たら、必ずベッドに仰臥位で寝かせて眼球偏位が減少するかどうか検討する必要があります。また舌根が沈下し易い症例では、呼吸状態が悪化しますと、眼球偏位が起きやすくなります。首や胸の下にタオルなどを用いて呼吸のし易い姿勢を造り出すことによって、よりよい視反応を引き出せます。リクライニングの姿勢を維持できるクッションチェアを使用するのも良い視反応を引き出せます。さらに、彼らの体調や日内変動も眼球偏位の多寡は依存しますので、日を改めて時間を変えて繰り返し視反応を評価することが大切です。なお、眼球がほぼ中央にあっても、スムーズな瞬目をしていない場合は、眼球偏位の一種である可能性が高く、瞬目にも注意する必要があります。
c)視反応の評価
 追視は、乳児と同様左右や下方へは比較的容易に出現しますが、上方へは最後になります。かなりはっきりした視反応がないと上方を向いての追視は確認しづらいので注意が必要です。つまり抱っこされた症例に、上の方からおもちゃを見せて視反応を評価することは適切ではないのです。眼球偏位の少ない姿勢をとらせた上で、視反応の評価をします。しかしそれでも眼球偏位が混在する時は、眼球が中央にあって自然な瞬目をする時に視標を提示して、視反応を評価します。視標は、背景とコントラストを考慮した色調・図形の数・図形の種類・形状・図形の重なり・移動速度などの各要素に配慮して作成します。図にはAからIまでの様々な、視標を配しました。これらの要素を変えることで、輪郭を抽出しにくくなり、パターン認識が難しくなることがわかるでしょう。

施設写真

d)視反応の発達を促進
 症例の解析系の発達程度を正確に評価した上で、最も脳の活動の良い状態下で、適切な視標を用いて、解析系を繰り返し使わせることに尽きます。眼球偏位などに留意した上で、視標の構成を選んで見せることです。追視ができるようになってくれば、テレビの幼児番組の中から選んで見せることで目的を達することができますが、テレビ番組に関心を示さない症例では、適切な視標を用いた刺激を記録したビデオテープを見せることもよい方法です。
 またコンピュータ自体の発達つまり精神運動発達が、視反応発達遅滞の改善に極めて重要な役割を担っています。それゆえ視覚障害児の療育は重要であり、早期から積極的に取り組む必要があります。障害児の保護者の多くは、日々の生活の中で、彼らの障害からくる不便さを自分の行動で肩代わりをしようとしますが、これは却って児の発達を遅らせかねません。また、地域社会に障害児が参加する療育の機会は少なく、多くの刺激を受けることがありません。地方自治体の多くは、定期的なスクリーニングの後、障害児と親を対象に定期的な療育をしていますが、回数が月に数回以下であることが多いのです。できれば、週5日の母子通園から母子分離に進む、地域の療育体制の確立が望ましいと考えます。