遠視について考える

挿絵はわかりやすいように倒像を無視して描いてあります

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遠視・近視・乱視の状態を屈折といいます。屈折の状態を決定するのは、角膜のカーブ・水晶体の厚み・角膜から網膜までの距離です。遠方のものを見る時、なんの努力もしないで、網膜にピントの合った像が写るのが正視です。網膜の前でピントが合ってしまう場合は、網膜の位置ではぼけた状態で、これを近視といいます。網膜の後でピントが合う場合は、網膜の位置でやはりぼけた状態となり、これを遠視といいます。

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ピントの合う位置は、遠方を見た時に比べ実物が近づくにつれ、後に移動します。眼球がなんの努力もしないでいても、近視の眼はだんだんピントが合うようになります。一方正視の眼はボケ始め、遠視の眼はさらにボケるようになります。しかし、今度は水晶体とつながっている、毛様体の筋肉が緊張して、水晶体の厚さを増して、網膜にピントが合うようにがんばります。これを調節といいます。実物が近づいてくるほど、本来のピントの合う位置は後にずれていきますから、調節する力は大きくする必要があります。また調節のおかげで、正視の人は遠方から近方まで、いつでもピントの合った画像を、見ることができるのです。
 ところで、遠視の眼はどんな特徴があるでしょうか。
遠視の場合、遠方を見ていても調節をしないと、網膜の後にピントが合ってしまいます。これを網膜にピントを合わせるために、調節をします。遠視の程度が軽ければ、調節によって、遠方のものは鮮明に見えます。実物が近づいて、調節で対応できる間は、鮮明に見えます。調節できる範囲を超えると、像はぼけます。しかし遠視の程度が強い場合、遠方でも調節力が効かず、鮮明な像は得られません。視覚が発達する時期に、鮮明な画像を脳に送ることができないと、脳の解析する能力が発達しない弱視になるので、治療が必要です

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ですから視覚の発達する時期(生後から、6~8歳まで)に、小児の屈折を検査して、弱視が疑われる遠視に対して、眼鏡を装用させ、脳へ鮮明な画像を届けて正常な解析能力(すなわち視力)を育てる必要があります。このための検査が3歳児の眼科の検診です。これを必ず受けましょう。視力検査がうまく測定できないから、検査を受けずに済ませることは、子供の一生を左右する危険な行為です。視力測定ができなくても、検査の目薬をさして他覚的な屈折検査をすれば、屈折異常は判定できます。「うちの子には無理」と決めつけずに、検査を受けましょう。
 遠視で、眼鏡装用が必要と診断されたら、眼鏡を作って装用することになります。この場合、眼鏡の装用時間はできるだけ長くするのが、弱視の状態から正常になるまでの最短距離になります。最初はいやがっても、徐々に長くしていく努力をしてください。こだわりがあって装用がうまくいかない場合は、次のようにしてはどうでしょうか。幼稚園や保育園などに通っている場合は、出かける時に装用してお昼になったらやめていいとか、園から帰るまでと条件をつけます。それが無理なら、テレビを見る時とかゲームをする時などの短時間の条件にします。要するに弱視は眼鏡装用によって、眼鏡をかけるとかけない時よりよく見えるようになるので、その差を体験させることができれば、自分から長時間装用するようになります。
 あとは、定期的に視力測定を繰り返して、視力の発達状況をみます。視力測定ができなければ、眼鏡が合っているかをチェックしながら経過をみます。装用時間が長ければ、まず視力は順調に発達するでしょう。よく眼鏡を何歳までかけなければならないかの質問を受けます。答えは、眼鏡をかけないと1.0以上の視力が、近くを見て得られない場合は、ずっとの装用が必要です。現在の教育環境では近くを見る視力が1.0以上ないと、辞書やふりがなを読む時に支障があります。成長と共に調節する力が発達して、眼鏡無しで近くが1.0以上見ることができれば、眼鏡をはずしても構いません。通常視力が発達する時期は、生後から6~8歳といわれおり、この期間ではいったん正常に発達した視力が、容易に低下するという可逆性の不安定さを有しています。ですから眼鏡無しで近くの視力が確実に1.0以上という確信が無い間は、この時期の眼鏡装用は続けた方が安心です。
 どうしても、知的発達に遅れがあって装用ができない場合は、どうしましょうか。遠視による弱視は、ほとんどが日常生活をする上ではそれほど不自由はありません。文字を用いた生活や教育を受けるためには、1.0の視力が望ましいのですが、文字をほとんど使用しない生活なら、無理に眼鏡を装用させて視力を1.0以上にする努力はしなくてもよいでしょう。そのあたりを主治医と、よく相談して方針を決めたらよいでしょう。